←写真:上段左から2人目がMr.Kono@India
2008年6月号の越南ネットで、2人のSuper Jetro Boysを紹介しました。経済学でいうIS-LM-BP曲線上を歩く男達(いや、IS-LM-BP曲線を動かす男達だったかな?)ってな感じで紹介しました。2009年3月号では、「なぜ、Harvard Business Reviewに遠藤君が載っているの?」というスクープを紹介しました。今回の寄稿者(Mr.高野)は、それらのキーワードに加え、マイクロクレジット(貧困者向け小額貸出)、HIV/AIDS問題を引っさげて、今回、越南ネットに登場です!
話は変わるけど、最近、私、軽いジョギングをするようにしています。ロンドンまで、あと3年しかないと他人には言っていますが、7月は健康診断があるので不安で溜まりません。このジョギングが継続できたらいいなぁ~と強く思っています。そんな折、刺激を貰おうと思って、「そうだ、大学時代の後輩にホノルルマラソンを走破した奴がいたなぁ~」と思い出し、そんな流れで高野君に越南ネットへの寄稿をお願い致しました。期待に反し、ホノルルマラソンのことは一切触れられていません。(後に聞く話では、3時間10分の完走ですって。) However、高野ストーリーには圧巻の一言。まぁ、私がツベコベ述べるよりも、是非とも彼からのお便りを読破して頂きたい。読み終わる→末尾にYou Tubeリンクが貼られている→You Tube見ちゃう?→見ちゃう!→10分と思いきや45分見ちゃう→自分の中で化学反応が起きたことを感じる(続く・・・)。是非、皆さんの心の中で、どのような化学反応が起きるか試して頂きたい。参考までに、私の起きた化学反応は、「45分見ちゃう→興奮しまくる→24:30寝られない→そうだ、走ろう!と思った→いつもより速く長く走った→ゴールした時、新しい世界が見えた気がした→左足太もも後部肉離れ発生→本日休養5日目(全て事実)。 要するに、ローマは一日にして成らずってことです。高野氏も一日してならず。 ♪あと一歩だけぇ~前に~、進もぉ~♪by 竹山正人
<高野久紀(Kono Hisaki)さんからのお便り>私がベトナムに関心を持ったのは、小学生の頃、ベトナムのボートピープルの特集をしていた24時間テレビ(だったかな?)を見てからでした。 まだ小さかった私は、24時間テレビで歌手が途上国に行って子供たちを前に歌を歌って「心のふれあい」みたいなのをしている姿を見て、貧困で苦しんでいる子どもたちの心を慰められる歌手になりたいと思っていました。 ついでに、第二志望は外大時代の同級生の小山くんのお父さんがやっているような途上国でのNGO活動でした。高校には高校野球をやるために行き、大学には行くつもりはありませんでした。 しかし、高3の春に、進研ゼミかどこかからダイレクトメールが届き、東京外大の在学生の記事が載っていました。 「アジアやアフリカなどさまざまな国の言語を学べるのはここくらい」とあり、大学でそんなことも学べるんだと衝撃を受けました。 「歌手になって途上国に行って歌うにしても、NGOなどで途上国に行って援助事業をするにしても、言葉がわからなければ人々と交流ができないし、人々と会話ができなければ、彼らの抱えている問題も分からないじゃないか」と思って、小さい頃から関心を持っていたベトナム語を学ぼうと東京外大を目指すことにしました。めでたく大学には入ったものの、つい、入学手続きの日に野球部の練習に参加して、入学前に野球部に入部することになってしまい、大学生活の大半は野球漬けで過ごすことになってしまいました。 今では、大学生のNGO活動も盛んで、国際協力のNGOに入っている学生もたくさんいますが、当時(1995年入学)は、そのようなNGO活動も(少なくとも東京外大では)なく、言葉は勉強しているけれど、実際何ができるかは依然として模索中で、結局野球に打ち込むという大学生活が続いていました。そんな私に転機が訪れたのは、大学3年の春の自転車で家に帰る途中でした。言葉がわからなければ話にならないと思って言葉を学んではみたものの、言葉はあくまでコミュニケーションの手段で、コミュニケーションができるようになったからといって自分自身が何か彼らの役に立つスキルなり能力なりをもっていなければ、結局は彼らの問題も解決できないということを痛切に感じ、将来、何をしたらいいのかと悩んでいた時でした。 自転車をこぎながら、ふと、外交官がいいんじゃないかと頭をよぎりました。 「ベトナムのボートピープルにしても、カンボジアやアフリカの内戦にしても、政治が問題で人々が苦しみを味わっている」と思い、大学3年の春で野球を卒業し、外交官試験の準備に打ち込むことにしました。東京外大でも、外交官を目指す人たちが一緒に勉強会を行っていました。 外交官の試験は、専門試験として憲法と経済学と国際関係の論述試験があり、毎週一回、過去の論述試験を解くということをやっていました。毎週の答案を作るために、憲法や経済学や国際関係の教科書をあれこれ読みあさり、大学受験なんかよりはるかに真剣に勉強しました。外交官試験の勉強を進めていく途中で、次第に経済学に対する興味が強まり、一方で外交官としての可能性にやや疑問を持ち始めてきました。「ボートピープルや内戦、貧困の問題を一外交官がどうにかできるのだろうか。アメリカの国務長官でさえ限られた問題しか解決できていないし、そもそもその国の政治に対して口を出したら内政干渉なんじゃないか。 パスポートを無くした人の手続きとかもやらないといけないし。。。」と思うようになり、「外交官や政治は、内戦やめろとか国境問題がどうのとか、相手の政府に妥協を求める仕事がほとんどだけど、経済学だったら、こうしたら国が発展しますよ、貧困が削減できますよ、とポジティブなアドバイスができるので、相手も受け入れやすく、もっと力があるんじゃないか」と考えて、外交官はやめて、大学院で経済学を学ぶことにしました。東大の大学院では、ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学のコースワークをこなしつつ、開発経済学の勉強をしました。 コースワークでは数学的な知識が非常に多く必要とされ、最初はかなり悪戦苦闘し、本当にこんな数学を学ぶことが経済開発を研究するために重要なのかとも思いました。 大学院でコースワークをこなし、経済学の知識がついてくると(+シンクタンクから出向してきた人の話を聞いていると)、ナントカ総研など国内のシンクタンクが行っている経済分析がかなりいい加減なことに気づくようになり、博士課程に進んでもっと勉強することにしました。博士課程で経済学を研究し、いろいろな論文を読み、また自分でも論文を書くようになってくると、「このまま数学モデルの構築や途上国の家計調査の分析を行っていて、本当に貧困削減に役立つようなことができるのだろうか、援助機関やNGOで実際に援助をしたり、民間企業に行って途上国でのプロジェクトを行っていく方が、貧困削減に役立つのではないか?」とも考えるようになりました。 経済開発や貧困削減について研究していながら、現実がどうなっているのか、その体験がなかったので、文科省のプログラムを使って、2年間ベトナムに滞在することにしました。 外大のベトナム語科に行っていながら、野球と外交官試験と大学院試験と大学院準備であまり時間がなかったこともあり、実はこの時までにベトナムには1回しか行ったことがありませんでした。ベトナムでは、語学の勉強をしつつ、あれこれ研究テーマについて考えていましたが、なかなかこれといったものが浮かびませんでした。 物売りの調査をしたりもしてみましたが、結局、教育が大事だとか社会的関係も大事だとか、ほかの人が既に論文に書いている以上のことはなかなか浮かんできませんでした。 そんなこんなで、ベトナム滞在中はたいした研究もできなかったのですが、研究が進歩するようになったのは、ベトナムから帰ってきて、再びそれまでのように最新の論文をあれこれ読むようになってからでした。 ベトナムでの経験があったので、最新の研究の妥当性についてもイメージがしやすくなり、その研究のさらに先を行くにはどういう調査をしたらいいのかも、だんだんわかってくるようになりました。 現実だけ見ていても他の人がすでに考え付いたようなことしか浮かんできませんが、現実を知った上でいろいろと最新の研究をインプットしたり、最新の研究をインプットして現実を見ていくと新しい研究の方向性が見えてきます。いろいろと研究の方向性が見えてくるにつれ、以前、「このまま数学モデルの構築や途上国の家計調査の分析を行っていて、本当に貧困削減に役立つようなことができるのだろうか、援助機関やNGOで実際に援助をしたり、民間企業に行って途上国でのプロジェクトを行っていく方が貧困削減に役立つのではないか?」と考えていたことも、結局は、言い訳を作っていたにすぎなかったと分かるようになりました。 経済学の研究が途上国開発に役立たないのではなく、自分の研究のレベルがそこまで到達していないので途上国開発に役立たないのだと。 そして新しくモチベーションを得て、研究を進め、国際的な専門雑誌にも論文を載せて、博士号も取り、アジア経済研究所という研究機関に就職しました。現在は、貧困層向けの少額貸出(マイクロクレジット)や貧困層向けの少額保険(マイクロ保険)、HIV/AIDS問題について研究しています。 近年、開発経済学の分野では、Randomized Field Experiment というものが盛んになっています。 これは、ある政策が本当に効果があるのか、どれだけ効果があるのか、あるいは、ある政策に対して人々がどう反応するのか、その結果として経済にどういう影響があるのかを検証するためのツールで、原理としては、ある政策を行う対象をランダムに決めて、政策が行われたグループと行われなかったグループの違いを見るというものなのですが、世界銀行でも多くのプロジェクトでこれを組み込むようになってきています。 この手法を使って、マイクロ保険ではインドのNGOと、HIV/AIDS問題については南アフリカの日系企業と協力して、財政基盤を維持しつつマイクロ保険を普及させるための方策、および、HIVの感染率抑制、HIV検査率の向上を促すための方策について研究しています。研究の良いところは、それによって背後にあるメカニズムを明らかにし、他の国や地域にとっても有用な知識を生み出せることです。 NGOや企業では、実際に自分が活動している地域の人々しか対象にできませんが、研究によって新たな知識を生み出したり、それまで常識と思われていた考えを打ち破ることによって、世界全体での貧困削減や経済開発に貢献することができます。 来年からは、おそらく2年間Harvardに滞在して研究を続けることになりますが、現実の貧困問題に対して実際にインパクトを与えられるような研究成果が生み出せるよう、がんばっていきたいと思います。最後に、いつも疲れた時に見ている、MITの日本人教授を取り上げたNHKの「プロフェッショナル~仕事の流儀」の動画を紹介させていただきます。 仕事の流儀(石井裕教授@MIT) ⇒⇒⇒
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