<伊藤悦子さんからのお便り>
明けましておめでとうございます。V99卒の伊藤悦子です。同期の竹山氏から「(専業主婦であるようで、ないような)アメリカ生活」のテーマで依頼をいただきました。どうぞ、最後までお付き合いください。
私は学生の頃からジョイセフ(家族計画国際協力財団)で働いていました。この団体は人口・リプロダクティブヘルス分野の国際協力を推進するNPOです。私が関わっていたのはベトナムのゲアン省のプロジェクトで、現地事務所をサポートする業務や、実際に現地に行って聞き取り調査などをしていました。アメリカを旅行したこともない、こんな私が2003年7月に結婚し、以来アメリカに住んでいます。
新婚生活はカリフォルニア州サンノゼでスタートしましたが、シリコンバレーの不安定な状況に見事に巻き込まれ、私が渡米した10日後にレイオフ(夫は結婚前より2年間働いていました)。その後ニューヨークで2年間暮らし、06年3月よりワシントン州シアトル近郊に住んでいます。短期間に西と東を往復したわけで、今でこそ笑い話ですが、夫も私も日本人ですので、当時はビザを変更する問題でハラハラしたものです。
サンノゼは数ヶ月しか住んでいませんが、サンフランシスコでベトナム語と即席中国語を使って貧困世帯に食料品を配るボランティアをしたこと、反戦デモがあったこと、などを思い出します。ゆったりした空気の中にもリベラルな雰囲気があるのが良かったです。ベトナム系移民10万人が暮らすベイエリア。お世話になった日系人の方も多く、長く住んでみたかった、という気持ちもあります。
ニューヨークでもゼロからのスタートでした。ニューヨークというと金融、アートなど華やかな印象をお持ちだと思いますが、近所のファストフード店は全面防弾ガラス張り、物価は高く、なかなか過酷な生活でした。もちろん、世界各地域から民族が集まっているので、その文化を垣間見ることができ、素晴らしい美術館・博物館が多く、市内は地下鉄が使える、など良いところもたくさんあります。
そしてたどり着いたのがシアトルです。ここは小さい町ですが、ボーイング、マイクロソフト、スターバックスなどの大企業が集まっています。イチローのプレイも見られます。近くにはマウント・レーニエやオリンピック国立公園などの大自然があります。またベトナム人が4万人と多い地域でもあります。困ることは、秋から春にかけて(ずっと)雨の日が多いことです。唯一爽やかな7~8月は毎週のようにバーベキューに顔を出したり、カヤックを楽しんだり、悔いのないよう過ごします。
私のビザはつい最近まで労働が許されない種類でしたので、いかにお金をかけずに行動範囲を広げるか、が課題でした。テロ以降、労働ビザ取得が難しくなり、タイミングも良くなかったと思います。そこで、とにかく引越した直後からボランティアを始めました。フルタイム・ボランティアの肩書きをいただきました。なかでも、困難な状況にある移民の方に、社会福祉サービスを提供する手伝いを各都市で続けている経験は、日本に帰ることがあれば役に立つかな、と思っています。
渡米前は、アメリカは暴力的であまり好きでない国でした。社会の不平等を目の当たりにするアメリカで疑問は尽きませんが、今は、良い社会にしていこう、と奮闘する人たちと仕事をすることが楽しいです。今年はさらに厳しい1年になると思いますが、みんなでCHANGEが見られることを願っています。
最後になりますが、越南ネット11月号にあるように、学生時代にお世話になった今井昭夫先生とV科卒の小川有子さん、坪井未来子さんと作業を進めた「ベトナムの歴史」(明石書店)が出版されました。ベトナム中学校歴史教科書を翻訳しました。3年間の歳月を費やし、この間、海外赴任など、生活がめまぐるしく変わった訳者は私だけでなく、日米越に散らばる4人チームで訳し、調べ、出版にこぎつけた一冊です。ベト科卒・現役の皆さまには、ぜひ、ご購入いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。